この愛には気づけない

5  車内での会話 ②

「ちょっと遠方のお客さんのところに行ってて、帰りが遅くなった」

 営業のオフィスと私の部署のオフィスは同じフロアだ。部長と戻ってきたから、今まで外に出ていて、会社に戻ってきたところで合流したのだろうと思っていたのだけど、やっぱりそうだった。

「そうだったのね。お疲れさま」
「お前もお疲れ」
「ありがと。でも、何で直帰しなかったの?」
「お前に話したいことがあって。社用車で行ったから返すついでに見たら、明かりがついてたから、誰かいんのかなって。お前のスマホに連絡入れたけど出ねぇし、気になって見に来た」
「うそ。電話くれたの? 気づいてないわ」

 ショルダーバッグの中からスマホを取り出して確認すると、着信が2度ほど入っていた。2回共に哲平だった。

「ごめん。カバンの中に入れたままだった」
「無事に合流できたし気にすんな」

 運転中なので、哲平は前を向いていて、私からは横顔しか見えない。対向車のライトや街灯に照らされた哲平の横顔が綺麗に見えて、イケメンと言われるのも納得できた。
 すると、一瞬だけ、哲平がこちらを見た。

「何だよ」
「こんな所を見られたら大変なんじゃないのかと思って」
「何が大変なんだよ」
「あんたを好きな女の子から恨まれそう」
「そういうの、お前は気にしないだろ」
「……まあね。嫌なことを言われたら、羨ましいでしょって言い返すわ」

 微笑んで言うと、哲平は苦笑する。

「お前は喧嘩っぱやいから心配だ」
「売られた喧嘩を買うだけよ。敵じゃない人には優しくするわ。それに、自分が悪かった時はちゃんと反省するから」
「そういう問題じゃねぇんだよな」

 哲平は呆れたように息を吐いてから、話題を変える。

「……お前に相談したいことがあんだけど」
「何? お金はないわよ? だから、貸せないし、あげられない」
「ベタな反応しやがって。真面目な話をしてるんだよ」
「ごめん。で、何なの?」
「俺の部署で嫌がらせされてる子がいるっぽいんだ。しかも、嫌がらせしてるのはお前の同期」

 そう言われて、すぐに頭の中に浮かんだのは、私と相性が良くない同期の女性の姿だった。

 
  
< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop