この愛には気づけない

6  車内での会話 ③

 私の同期は男性が二人、女性が二人で、私を合わせて五人になる。その内の一人の女性と私は特に仲が良いのだけど、もう一人が女性を嫌うタイプだったため、気が合わなかった。
 私と仲の良い同期は見た目も可愛くて、芸能人だと言われても驚かないくらいの華やかさがある。
 嫌がらせをしていると思われる同期のほうは、スレンダー体形の美人で、どちらかというと、男性に媚びる傾向があり、女性のことはどうでも良いという態度が見え見えだった。
 そんなタイプの人間と私が上手くいくわけがないので、入社してから3年も経つのに、ほとんど会話したことがない。

「どんな嫌がらせをしてるの?」
「わざと営業の連絡事項を伝えなかったり、お客さんからの電話を取り次がなかったりして、仕事に支障が出てる」
「それって、哲平が上に報告しても良い案件じゃないの?」
「俺もそう思うんだが、営業部長から口止めされた」
「はあ?」

 大きな声で聞き返したからか、哲平はうるさそうに眉根を寄せた。

「俺だってそう思ったけど、一応、俺は営業部長の部下だからな」
「仕事に支障をきたすのなら、あんたが上に報告しても何の問題もないでしょう。黙ってるほうがおかしいわ」
「そうなんだが、されてる子もされてる子で、大事にしたくないって言うんだよな」

 私の会社の営業部の女性といえば、気の合わない同期と、中年の女性。それから、営業事務の女性だけだ。
 中年の女性はベテランだから、嫌がらせなんてされたら、言いたいことを言って大人しくさせるでしょう。

 ……ということは、一人しか残っていない。

「営業事務の女性って中野さん、だっけ」
「ああ。いかにも大人しそうな感じの人だろ」
「……今度、見ておくわ」
 
 興味がないし接点もないので、顔がすぐに思い出せなかった。
 本当に申し訳ない。

「そういえば、それって、哲平のせいで揉めてるんじゃないわよね?」
「違う。まあ、後藤さんから食事に誘われたりはしてるが」

 後藤さんというのは、例の同期の名字だ。哲平に気に入られて、彼女にでもなろうとしてるのかしら。

「モテるんだから、彼女を作ればいいのに」

 そうすれば、変な女にロックオンされなくて済むかもしれない。そう思って言ってみると、哲平は前を向いたまま答える。

「お前以外、興味ねぇんだよ」
「……それって、どういう意味?」
「そのまんまの意味だ」
「シスコン?」
「違うわ」

 哲平の機嫌がまた悪くなったので、話題を戻すことにした。
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