この愛には気づけない

8   おせっかいな性格 ②

 営業が土曜日に出てくるなんて、うちの会社では珍しいことだ。大体のメーカーが休みだから、出ても事務処理しかやることがない。

 ……中野さんは営業事務だっけ。でも、事務処理だって、土曜日に出てこなければならないくらいに溜まっているのなら、多少は営業がやるべきなんじゃない?

 もやもやしていると、部長に「眉間にシワが寄ってるぞ」と言われてしまった。

 中野さんのことは、あとで考えよう。自分の仕事を片付けるために、集中することにした。


******


「おはようございます」

 少ししてから、三納くんがオフィスに現れた。私は少しでも早くに帰りたいから早めに来たけれど、彼は普段通りの時間に来たようだった。

「おはよう。昨日はごめんね」
「いえ。あの、良かったら、今日こそは」
「おはようございまーす」
「「おはようございます」」


 三納くんが話している途中で、黒のダウンジャケット姿の哲平がオフィスに入ってきた。私の会社は女子は制服はあるが、土曜日は制服を着る必要はない。それと同じで営業はスーツではなく、普段着で出社して良いことになっている。

 哲平に挨拶を返したせいで、会話が途切れてしまったので聞いてみる。

「あの、三納くん。何か言いかけてた?」
「あ……、えっと。その、大したことではないというか」
「なら、ごめん。先に昨日、家まで送ってもらった、お礼を言ってくる」
「は、はい」

 キャメル色のコートを脱ぎながら、三納くんは、なぜか、がくりと肩を落とした。その様子が気になって立ち止まる。

「え、何? そんなに落ち込むくらいなら、ちゃんと言ってよ」
「いや、その、あの、昨日は出かけられなかったから」
「……え?」

 思わず眉根を寄せて聞き返すと、三納くんは慌てた顔になった。

「い、いえ、なんでもないです! き、気にしないでください! 更衣室のロッカーにコートをかけてきます!」

 三納くんは慌てた様子でオフィスを出ていった。

 もしかして昨日は、お腹が減ってたからじゃなく、私と一緒にご飯に行きたかったの?
< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop