この愛には気づけない

9   おせっかいな性格 ③

それは困る。申し訳ないけど、社内恋愛はできればしたくない。別れた時に気まずくなる。それに、社内に哲平がいる間は特に駄目だ。

 わがままな弟を持つと、自由に恋愛もできないのだから困ったものだ。そこまで私が気にするものでもないと思うけど、哲平に彼女ができるまでは、私の足になってもらおうと考えているから、機嫌はとっておかなければならない。

 それに、三納くんは良い後輩だ。関係を悪くしたくない。本当にごめん!

 三納くんが更衣室に入っていくのを見送ったあと、自分の席に座っている哲平の所へ歩いていく。
 哲平のデスクの上はきちんと整頓されていて、仕事に必要な事務用品や書類で埋まっている私の机とは大違いだ。

 哲平は私が近づいてくると、ノートパソコンの画面から目を離して私を見つめた。

「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「おはよう。どういたしまして。最近は物騒だから、あまり遅くまで残業しないほうがいいと思うよ」
「……気をつけます」

 なぜか、営業スマイルの哲平の頭を叩きたい気持ちでいっぱいになったけど我慢する。営業と他部署の事務員が同期でもないのに仲が良いのは、接点を探られる可能性が高まるからだ。

 知られたら、学生時代の時のように紹介してくれだの、好きなタイプを教えてだの、色々と聞かれるに決まっている。そんな面倒くさいことは御免だ。

 私も営業スマイルを返したあと、自分の席に戻ることにする。哲平の席から2人分挟んだ所が中野さんの席だった。自分の席に戻るふりをして、彼女の背後を通った時、彼女の机の上が私よりも酷いことになっていることに気がついた。
 書類が山積みになっていて、中野さんは泣きそうになりながら、ノートパソコンとにらめっこしている。

「中野さん。これ、全部、やらないといけない仕事?」

 部署は違うが、私のほうが先輩なので尋ねると、長い艶のある黒髪を後ろで一つにまとめ、黒縁の眼鏡をかけた中野さんは、泣きそうな顔を私に向けた。
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