君に溺れた5秒前
君って本当にバカだよね
「何これ? 初めてなんだけど。 こんなバカ丸出しの点数を見たの」
そう私に冷たく言い捨てる彼。
「梨子ってホント、バカだよね。 バカに付ける薬なんてないって言うけど試しに漢方薬でも飲んでみれば?」
そう私にきつく言い捨てる彼。
「こんな点数を取ってて将来はどうするわけ? まさか将来の夢はお嫁さんだから大丈夫とか甘いこと考えてないよね? 無理だよ、無理。こんなバカじゃ」
そう私に説教をする彼。
佐上秀平。通称、秀ちゃん。私の隣の席の男の子で物凄く頭がいい。だけど、高校2年生になって初めて同じクラスになってから、事あるごとに私に辛くあたってくる。
「そんなこと考えてないもん…」
なんて呟くくらい小さな声で秀ちゃんに言い返した私、金田梨子。ちょっと勉強が苦手な女の子。
「何それ。 言い返してる暇があったらさっさと覚えてくれない? 俺の貴重な時間をこれ以上無駄に使いたくないんだけど」
秀ちゃんは私の態度が気に入らなかったのか、眉間に皺を寄せて至極不機嫌そうにする。
夕暮れ時の教室。そこにいるのは秀ちゃんと私だけ。甘くなりそうなこの雰囲気で険悪なムードが漂っているのは、相手が秀ちゃんだからだろうか。
「さっきから聞いてる? また己の世界に入り込んでない? 」
「あわわ、ごめん」
「まったく。そんなボケッとしてる余裕があるなら、わざわざ俺が勉強を教えてあげる必要なんてなさそうだね」
さらに苛立ったように捲し立てる秀ちゃんに、泣きそうになりながら慌てて頭を下げる。
やばい。これ以上秀ちゃんを怒らせたら本当に教えてくれなくなっちゃう。
そうなったら終わりだ。本気で留年しかねない。
「もういい。謝っている暇があるならさっさと手を動かす。 無駄なことに時間を使わないでくれる?」
顔を引き攣らせた私に秀ちゃんは鬱陶しそうな視線を向けてくる。
本当に秀ちゃんはいつも私に対して冷たい。誰に対してもこんな感じだけど、私に対しては特に冷たい気がする。
それがいつも寂しい。
「……うん」
それでも何も言い返すことは出来なくて。私は小さく頷きながら秀ちゃんに怒られないようにシャーペンをノートに向けた。
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