君に溺れた5秒前
頭の良い秀ちゃんは料理だって上手だ。レシピを軽く見ただけで、ぱぱっと同じ物が作れちゃう。それこそ味だけじゃなくて盛り付けのセンスだって完璧。
そんな秀ちゃんからすれば私の行動は理解出来ないんだろう。更に何故だかお菓子作りだけが得意なのも謎に拍車を掛けているに違いない。
本当にどうしてかなー。手順を間違えたり、調味料を間違えたり、自分でも結構酷いと思う。結婚前から練習をしているのに失敗の繰り返しで未だに上手く出来ないし、手際もかなり悪いまま。それこそ下手の域を超えている気がする。
もしかしたらボヤけた記憶のまま先に進んでしまおうとするのがイケないのかも。しっかり思い出す前に答えを決めちゃう癖。 学生時代のテストの解き方と同じ。この私の頭で大学まで行けたのは間違いなく秀ちゃんのお陰だ。みっちり勉強を教えて貰った日々が懐かしい。
「ごめん。作り直すね」
とにかく申し訳なさすぎて失敗してしまった料理をキッチンに引っ込める。しょぼーんと肩を落として暫し反省。あの時ちゃんとしっかり手順や材料を確認しておけば良かったと軽く自己嫌悪。
しかし、秀ちゃんはキッチンの中に入ってくると、片付けようとしていたお皿を私の手から奪った。そのまま再びテーブルの方へと持っていく。