曖昧ハート
DV男
「あ、お前もういいわ。帰って」
愛の営みが終わること数分。大好きなダーリンがスマホをポチポチと弄りながら、私に背中を向けて冷たく言い放つ。
こぢんまりとしたマンションの1室。欲を吐き出された直後に放たれた言葉を呆然とした気持ちで聞く。
自分から家に来いと言ったくせに勝手なことをほざくこの男は、付き合って3年目の私の彼氏“貴ちゃん”。
今年で28歳の彼はホリが深く色黒で趣味がサーフィンなだけあってガタイが良い。
そこそこ名の売れたDJでトーク力も抜群。だけど、重度の女好き。マジでとにかく軽い。私との出会いだってクラブでナンパだった。
タイプで表すなら俺様でワイルドな肉食系。
そんな愛しのダーリンの家に訪れた私“花音《かのん》”(23歳)はセックスが終るなり、外に追い出されそうになっている。
「今すぐ?」
「秒で」
手櫛しで髪を整えながら起き上がった私に、貴ちゃんは本当に面倒くさそうな顔を向けた。
用済み、処分ってシールを貼るみたいに。“しっしっ”なんて手を振って、とっとと私を外に追い出そうとしている。
さっきまで気持ちよさそうに私の上で腰を振っていたのに、そんな愛しい面影なんてまるで無い。
プライドがズタズタ。誰よ、あんた。本物の貴ちゃんはどこ?さっきまでの貴ちゃんを返せ、と言いたい。
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