曖昧ハート


 「友達の家~」
 『誰?』
 「小学校の同級生だよ?」
 『ふーん』



 明るく言った私に貴ちゃんは興味がなさそうな声を出した。あっそ、って感じ。


 いったい何の電話?と思うが、そこから黙ってしまい、何も言って来ない。

 用がないなら切っていい?と愛しのダーリンに向かって白状なことを言いたくなる。


 貴ちゃんは村田が男だと知らない。嘘を吐いた訳じゃないが『友達の家にいる』と言ったら勝手に女友達だと思い込んだ。


 そこから、ずっと勘違いしたまま。疑いもしない。


 私も私で村田を取り上げられるのが嫌で否定せずにそのままでいる。


 だって、貴ちゃんは束縛が激しい。自分の浮気は許すけど、私の浮気は許さない。村田が男だとバレたら確実にボコボコ。関係を切らされるに違いない。


 だから村田の家にいるときに貴ちゃんから電話が掛かってくると村田は口を閉じる。

 初めて貴ちゃんから電話が掛かってきたとき、“絶対に声を出しちゃダメ”って私が村田に言ったから。


 それからずっと村田は私が言った約束を守り続けてる。貴ちゃんから電話が掛かってくると何も喋らない。口を閉じて、ひたすら自分の気配を消してる。


 今だってキッチンから出てきたけど、無言。駆け寄った猫と玩具で遊んでる。部屋の中は静かだし、猫の首輪に付いた鈴がリンリンと鳴っているだけ。
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