曖昧ハート

 勿論、喧嘩をしたから外に追い出されそうになっているんじゃない。貴ちゃんの気紛れはいつものこと。


 彼はいつだって自分勝手で己の気持ちが最優先。終電間近に平気で呼び出されたり、夜中に私を外に追い出したことなんて数え切れないくらいにある。

 危ないとか電車がないって心配をしてくれたことは1度もない。


 “でも、そこがワイルドで素敵”
 “男らしくてカッコイイ”
 “俺様最高!!”
 “んもう、ダーリン愛してるぅ!”


 と、思っていた過去の自分をぶん殴りたい。本気でしばきたい。完膚なきまでにぶっ飛ばしたい。

 目ぇ覚ませ、バカ。山へ武者修行に行って来い。いっそ、今から行け。本気で行って来ようぜ!山の向こうへ!と思う。


 だって、ねぇ?本当に急用が出来て追い返されるなら、まだいいよ。ちょっと『えー』とか思ったりするかも知れないけど、別にいい。大人しく帰るさ。

 だけどね、そのスマホのラインのアイコン。この間、家に連れ込んでた女だよね!?と聞きたい。


 あれはそう。忘れもしない、先月の終わり頃だったか。家に来て、玄関のドアが開くなり目に飛び込んできた10cmの赤いピンヒール。

 私の物じゃない、貴ちゃんのサーフィン仲間のギャルがよく履いているピンヒール。


 見た瞬間に思った。あぁ、これ、家に連れ込んで速攻襲ったやつだなと。ドアを閉めるなりキスして、脱がして、頂いたやつだなと。


 見ただけで想像が付くくらい、そのヒールは玄関に乱雑に転がってた。
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