曖昧ハート

 「冷やしとけよ」
 「……うん」


 貴ちゃんから渡された保冷剤を複雑な気持ちで受け取る。

 クラブでナンパされて3年。どうしてこうなっちゃったんだろう……と、腫れた顔を冷やしながら考える。


 初めて会った日。貴ちゃんは酔っ払いにしつこく絡まれていた私を助けてくれた。

 友達とはぐれるわ、変な人に絡まれるわ、で泣きそうになってた私の前に颯爽と現れた貴ちゃんは、言ってみれば正義のヒーロー。


 『ごめんねー。この子、俺のだから〜』とその場から私を救い出す姿は、本当にドラマに出てくる主人公のようだった。


 今思えば、それも貴ちゃんが使うナンパの手の1つだったのかも知れない。かもと言うか、間違いなくそう。だけど、あの日の私にとっては男らしくて頼もしい男に見えた。

 そこでホイホイ惚れ込み、付き合おうとなり、即ホテルにまで行っちゃったあの日の私は、ただのバカ。いい鴨だ。

 しかし、付き合った当初の貴ちゃんは優しかった。浮気はちょくちょくしてたけど、殴ったりはして来なかったし。

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