曖昧ハート
「ちゃんと殴り方、教えてやっただろ」
「出来ないわー、実際にやるとなると」
「なんでだよー。こう来たらこうだ。ちゃんと覚えろ」
最初は引き気味だった4番目の兄貴が、思い出したように傍へ寄ってきて、身振り手振り技について熱く語ってくる。
志朗は長年ボクシングをやっていて喧嘩が強い。今だって寝癖が爆発しまくって見た目はマヌケな感じになってるけど、技は完璧だ。
1番目の兄貴は空手。2番目の兄貴は剣道。3番目の兄貴は柔道。我が家の男は護身術に長けている。
この兄貴達に憧れて私も何か格闘技をしてみたいとお母さんに頼んだけど、私には女の子らしいことをさせたいって気持ちが強かったらしく、いくら頼んでもやらせて貰えなかった。
あまりにも女の子らしさを求められた結果、今の中身おっさんみたいな私ができたとも言える。
「技とか逮捕とかの前に、まずは別れてこい」
「そうしたいとは思ってるけど。なかなか決心がつかないの」
「そうしたいとまで思ってるのか。かなり進歩じゃねーか」
ごまかすように週刊誌を手に取った私に警察官をやっている光弥が目を見開きながら言う。
あまりの驚きように、兄貴に撫でられていたキューピーまでもが『何かあった?』と言いたげに、キョロキョロし始めた。
傍に近寄り、何でもないよ。と宥めるように頭を撫でる。