曖昧ハート


 そこから30分後。実家の玄関。


 「……だから早く別れなって言ったじゃん」


 ドアを開けて出迎えるなり、村田は私の顔を見てそう言った。呆れているのか眼鏡を指で押し上げてデカイ溜め息を吐いてる。

 うん。絶対にそう言われると思ってたわ。思わず言いたくなるくらい、今の私の姿は酷い。

 マンションを出るときもすれ違った他の住人からビビられたし。


 「今回は何が原因?」
 「目付きが気に入らなかったんだって」
 「そこまでくると因縁をつけてるとしか思えないね」


 ドアがパタンと音を立てて閉まり、村田は出迎えたキューピーの頭を撫で回しながら、吐き捨てるように呟いた。

 物凄く微妙な顔つきだ。物言いたげな顔でじっと見つめられ、心臓がドキリと音を立てる。


 「……まさか俺とのことがバレたんじゃないよね?」
 「違うって。本当に目付きが気に入らなかっただけでしょ」
 「だったらいいけど」


 複雑そうな表情を浮かべる村田にスリッパを差し出し、何でもないことのようにヘラヘラと笑う。

 心の中では気にしないで欲しいって気持ちでいっぱいだ。変に気を使って距離を空けられたら、それこそメンタルが病む。
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