曖昧ハート
「なんで兄貴が保管してることにするの?」
「そう言えば兄貴たちの姿がチラついて冷静になるだろうから」
「あ、そっか。ヤツはうちの兄貴たちが苦手だしね」
「でしょ。少なくとも殴りにくくなるし。持ってこいとは言わなくなると思う」
納得したように頷いた私に村田は手土産のシュークリームを差し出しながら薄く笑った。
珍しい。含みのある笑顔だ。悪村田の完成。
でも、確かにいい案だ。そう言えば、貴ちゃんは確実に黙りそう。
何と言っても彼は兄貴たちのことが苦手だから。極力、関わらない方向に持っていきたがる。
万が一にも兄貴に持って来られる可能性があるなら見る方を諦めるだろう。
うちの兄貴ときたら気性は荒いし、喧嘩早いし、馴れ馴れしいし。
それに少しばかりグレてるものだから、似たタイプの貴ちゃんは馬が合わない。
実家に呼んでも何だかんだ言い訳をして絶対に来なかったくらいだ。
きっと『持ってきてくれるって~』と言った日には風のように逃げる。
「いいぞ。俺が持ってることにしよう」
「ばーか。そこは兄貴より俺が持ってることにした方がいいって」
「何言ってんだ。お前に任せたら取りに来いとか言って自分のところに来させようとするだろ」
「それを言うなら兄貴だって。持っていくだとか言って、どうにかして会おうとするだろ」
買い出しから帰ってきた光弥と志朗が村田の肩に腕を絡ませ、ギャーギャーと言い合う。
持っていた買い物袋をテーブルの上に放り出して、たこ焼きよりも卒アルの保管権争いに夢中だ。
気付けば、どうやって貴ちゃんを成敗するかって話にまで発展している。
もー。兄貴たちったら呼び出す気、満々になっちゃって。これがあるからこそ貴ちゃんは兄貴が苦手だとも言える。
傍で見ていた村田も苦笑い。