曖昧ハート


 「わかった。ノンアルコールビールね」
 「おー、何でもいいからビール」
 「銀色のやつな」

 あえてアルコール抜きと言った私の発言を軽くあしらい、兄貴たちはビール缶に手を伸ばして楽しそうに笑う。

 いったい何がそんなに面白いのか、何でも買えってゲラゲラ笑いながら自分の財布まで投げてきて、かなり上機嫌。

 ついでに自分の物も色々と買ってやろうか……なんて悪企みを抱きつつも、しっかりとした足取りで玄関に向かった村田と一緒に家を出る。

 外は当たり前だけど、静かだった。他に誰も歩いてないし、すっかり夜って感じ。マンションの光と電灯があるおかげで道はそこそこ明るいけど。


 「見て見て、村田。こうやって髪を前に垂らせば幽霊っぽくない?」
 「ヤメなって。知らない人が見たら本物と間違えるから」
 「平気、平気。村田が取り憑かれてるだけって思うだろうし」
 「それもそれで微妙だわ」


 のろのろと歩きつつオバケの物真似して、村田にちょっかいを掛ける。

 そんな私に村田は呆れ顔。人一人分、距離を開けて心底冷めたような視線を向けてきた。一緒に歩くのも恥ずかしいと思っていそう。

 それでも歩く速度を合わせてくれてるんだから、やっぱりコイツは優しい。ずっと変わらずに、このまま一緒に笑っていたいな、と思う。


 「変わらないね、私たち」
 「何と言っても常に素だからね」


 そんな風に2人であーでもないこうでもないと他愛もない話をしながら歩いた。他の誰といるときにも味わえない、めちゃくちゃ平和な時間だ。

 最寄りのコンビニまでは家から歩いて5分。距離も短いし、すぐに着いた。だけど、わりと沢山の話をした気がする。
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