曖昧ハート


 「よし。じゃあ、ビールと缶チューハイとカクテルをカゴ1つ分」
 「……そんなに要る?」
 「要る、要る。飲むよ、ヤツらは」

 店内に入り、兄貴から頼まれていたお酒とおつまみを次々に買い物カゴの中に放り込む。

 あまりの量の多さに村田は引き気味だ。“もう1つカゴを持ってくる”と言って、呆れたような笑みを浮かべながら入口の方に向かった。


 「あ、」


 それと同時に、派手な身なりの女の子が私の隣に来て足を止めた。

 反射的に視線を向けてしまい、無視しておけば良かったとすぐに後悔する。

 目が合い、お互い時が静止。心臓がバクバクと嫌な音を立てる。

 古いお人形さんみたいな傷んだ金髪に、こんがりと日焼けをした肌。派手なメイクで目力強め、少し筋肉質な手足を惜しげもなく露出している女の子。


 ――貴ちゃんの浮気相手だ。

 あの日、玄関で存在を放っていた赤いピンヒールの持ち主。貴ちゃんのサーファー仲間のギャル。

 1回だけだけど、顔を合わせたこともあるから間違いない。向こうだって私を見て、気まずそうにしてるし。

 顔面がオバケみたいに痣だらけになってるから、っていうのもあるかも知れないけど。

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