曖昧ハート

 「……どーも」
 「ども」

 とにかく騙ってるのも微妙だし、ペコッと頭を下げて適当に挨拶を交わす。

 愛想は良くないけど、関係性を思えば挨拶をしただけ偉いと思って欲しい。


 しかし、最悪だ。よりによって、どうして村田と一緒にいるタイミングで出くわすかな……。

 どうせなら他にもっと適切なタイミングがあったでしょ。貴ちゃんと、この子がガッツリ浮気をしている現場にバッタリとか。

 何かもっとこう私が許せばいいだけ、ってタイミングで会いたかった。そしたら“そっか”の一言で終われたのに。


 今なら、たとえ(もろ)に現場を見たって平気だ。この冷めきってしまったテンションなら普通に許せる。むしろ、踏ん切りもつくし、いいとすら思う。

 その証拠に、この子を見ても全然腹が立つ感情が湧かない。“うーわ、貴ちゃんの浮気相手だし。気まず!”って頭の中はそれだけ。

 それより、村田の存在を貴ちゃんにチクられるんじゃないか……って、そっちの方が心配。


 鬼の束縛師であるヤツのことだ。バレたら間違いなく縁を切らされる。というより、ブチギレ、ボコパチ。

 その怒りの対象が私だけだったら、まだいい。でも、貴ちゃんのことだ。間違いなく村田のところへも飛んでいく。


 嫌だわー。村田にだけは手を出されたくない。“俺の嫁に手を出すな!”って心境。兄貴にボディガードでも頼もうかな……と真剣に考える。
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