曖昧ハート
「兄貴……」
「うわ。その酒の量は何だよ」
「だって、皆で飲んだらこれくらいは飲むでしょ」
「まぁ、飲むけどさ。多すぎだろ〜」
ホントなんでココに居るのか全く理解できない私を放ったらかし、兄貴は平然とした顔で話し掛けてくる。
“アレも要るだろ、これも要るだろ”と、村田の持っていたカゴに次々と商品を放り込んで、まるで最初から買い出しのメンバーにいたかのよう。
一応、会うのは半年ぶりなんだけど。
実家住まいの光弥や志郎とは違って治郎は1人暮らしだし、仕事が大工であちこち飛び回ってるのもあって、あまり顔を合わせない。
何なら1番上の兄貴、一弥との方がまだ会うくらいだ。村田だって治郎と会うのは、かなり久々のはず。なのに。
「これ、美味しよね」
「わかる〜。こっちも美味いぞ」
「へぇー。食べてみようかな」
物凄く普通に話している。“久しぶり”とか“元気にしてた?”とか挨拶もなし。
治郎は元々そんな性格だけど、村田はチャンスに乗った感じだ。
未だ隣で突っ立っている女の子が、貴ちゃんの知り合いだと気付いたっぽい。
「ところでこの子、誰?花音の友達?」
「違う。私じゃなくて貴ちゃんの友達」
不思議そうな表情を浮かべる治郎にサラリと関係性を告げる。嘘は言ってない。実際彼女は貴ちゃんの友達だ。表向きは。