曖昧ハート
「治郎くん。そろそろ行かないとアイスが溶けちゃうよ」
早く爆弾と離れたかったのか、それまで影を潜めていた村田が兄貴の肩を突っつく。
いつの間にか全員分のアイスがカゴに入ってるし、健全な関係のアピールはバッチリだ。
まぁ、既に健全な関係ではなくなったわけだけど……。
現在進行系で浮気をしているわけじゃないし、家には兄貴たちもいる。お互い様ってことで今日のところは見逃して頂きたい。
「あ、悪い。伊織。待たせたな」
「う、ん」
兄貴はざっとらしく村田を下の名前で呼ぶと、私の手からカゴを奪い「じゃーねぇ」とギャル子に手を振った。
いきなり名前で呼ばれた村田の顔は“?”でいっぱい。兄貴も普段は私と同じで“村田”と呼んでるし。
でも、私は兄貴がそう呼んだ理由がわかる。
だって、いつも私が“村田”と呼んでるから。
何かの拍子に貴ちゃんの前で名前を出したとき、この場にいたのが村田だと貴ちゃんにバレないためだと思う。