曖昧ハート


 しかし、そうやって言わずとも空気を読んだ言動をしてくるんだから、兄貴はずる賢い。

 さすが、渡り鳥のように色んな女の子の隣を渡り歩いてる男。

 道理であれだけコロコロ彼女が入れ替わっても、修羅場にならずに過ごせているわけだ。


 会わされる側のコチラは、毎度“初めまして”ばかりでプチ修羅場だけども。


 「焦ったわ〜」
 「ありがとう、治郎君」
 「しかし、なんで兄貴がココにいるの?」


 レジを済ませ、店を出て直ぐ。お礼を言う村田の隣で、さっきからずっと気になっていたことを兄貴に尋ねる。

 居てくれて助かったけど、いきなり現れるから本当にビックリしたんだもん。

 兄貴の家はココから車で2時間は離れてるし。偶然会うっていうのは、まずあり得ないから。


 「だって村田が実家に来てるって聞いたから〜」
 「マジ?それでわざわざ2時間も掛けてコッチに来たの?」
 「まぁな。このチャンスを逃したら次はいつ村田と会えるか分かんねぇし」
 「それは、そうだけど……」


 だからって仕事終わりに高速を使ってまで飛んで来るなんて、兄貴もそこそこ変わってる。

 昔っから仲間に呼ばれたら飛んでいくような人だったけど、ほんの数時間ゲームをするためだけに走って来るなんてご苦労さまだ。
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