曖昧ハート



 「んでさ、家に着いたらお前ら居ねぇし。まさか帰ったのかと思って、一瞬、焦ったわ〜」
 「それでコンビニまで迎えに来たのね」
 「そーそー、ドコに行ったか聞いたらコンビニに行ったって史郎が言うから〜。待ち切れずに来たわけよ」


 隣を歩く村田の首にガシッと腕を回し、治郎は時間帯なんてまるで無視した声量で笑う。

 このテンションの高さ。実家に着いて早々、アルコールを摂取して来たに違いない。普段はもうちょっと大人しい感じだし。


 しかしまぁ、楽しそうにしちゃって。傍から見れば仲のいい兄弟みたい。

 村田も「会えて嬉しい」って照れたように目を細めて、ご満悦傍で見ている私の方まで何だか楽しくなってくる。


 「今日はうちに泊まっていくだろ?」
 「んー、どうしようかな」
 「迷うな、迷うな。村田専用の歯ブラシと部屋着と眼鏡拭きと新作ゲームも用意してあるから」
 「めちゃくちゃ引き止めてくるじゃん」
 「当たり前。今日は帰す気なんてねぇから」


 一歩後ろを歩く私の前。怪しげな笑みを浮かべた治郎が、彼女を引き止めるような口振りで村田を口説く。

 兄貴ってば強引。しかし、村田の方も満更でもなさそうだ。

 何だか恋人のイチャつく現場でも見させられている気分。間違いなくビジュは♂と♂だけど。
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