曖昧ハート
「そうしちゃいなよ、村田」
「いいの?」
「いいよ。私もまだ話足りないし」
「そ?じゃあ、お言葉に甘えて泊まろうかな」
私が頷くと村田は屈託なく笑った。猫が寂しがるから朝には帰る……、と飼い猫ファーストな宣言をしつつ。
この調子じゃ彼女が出来るのもまだまだ先っぽいな……と考えたところで、安心したような焦るような感情が押し寄せる。
やばい。“村田に彼女が出来たら嫌だ”と思ってしまった。
あれだけ友達だと言い切ってたくせに、1回寝たくらいで友情を飛び越えたことを考えてしまっている。
そんな我儘を言える立場でもないのに。独り占めしたいなんて最低な独占欲。
そう思いつつも、鞄の中からスマホを取り出して電源を落とした私は、とんでもなく狡い女だ。
どうしても、この時間を邪魔されたくない気持ちでいっぱい。それに兄貴達がいて、気も大きくなっていたんだと思う。
だから一瞬だけ見えた“貴ちゃん”の名前は気付かなかったことにした。
きっと、また殴られるんだろうな……と、2人の後ろでこっそり苦々しい笑みを零しながら―――。