曖昧ハート



 「早く帰れよ」
 「えー、も~意地悪」



 心底うざそうに肩を突き飛ばされ、ぶちギレそうになるのを必死に抑えながら、服を着てさっさと玄関を出る。


 バカみたい。私……。この男を愛してるんだっけ?この男に恋してるんだっけ?

 力強く閉められたドアに背を向け、必死に考える。


 思考回路は至って冷静沈着。そのくせ、一度点火した怒りは冷静になるどころか増していくんだから笑える。


 こんな酷い扱いをされたってまだ別れる気がないんだから本当にバカみたい。

 きっと、これは女の性で人間の本能だ。だって好きだし。手放したくない。別れたくない。って、ただそれだけ。


 人間なんて所詮は皮肉な生き物。欲望で生き、欲望で滅びる。境界線はいつだって曖昧だ。

 なんて貴ちゃんが使ってる香水の残り香に切なさを感じながら、戯けた言い訳を考えている私がいた―――。

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