曖昧ハート


 「うるせぇ!散れや!ぶっ殺すぞ」


 それに唾まで飛ばして怒鳴り散らしている貴ちゃんは、もはや正気じゃない。

 あぁ……。“殺られるかも”なんて考えが甘かった。かも、どころか確実に殺りに来てる。


 完全にしくったわ。店に現れないから“この辺りには居ない”って勝手に油断してた。

 貴ちゃんの性格を考えれば、私を探しに仕事先に来ることくらい当たり前だったのに。


 「貴ちゃ……」
 「めちゃくちゃ探し回ったんだけど」
 「……ごめん」
 「電話もラインも無視するし。おまけにアドレスまでなんで変えてんだよ!」


 落ち着いて貰おうと思ったけど、無理だった。

 “やってる事がおかしいだろ!“とギャーギャー怒鳴られ、顔を叩かれ、太ももに蹴りまで入れられる。手加減なんて一切なく、これでもかと苛立ちを詰め込んで。

 いきなりだったから碌に身も守れず、されるがまま。身を丸めて唸ることしか出来ない。

 “とにかく早く終わって欲しい”って、頭に思い浮かぶ言葉はそれだけ。

 痛すぎて息が止まりそう…。滑稽なくらいボロボロにされてしまって、ただただ震えることしか出来ない。

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