曖昧ハート
「お、落ち着いてよ……」
「はぁ?俺を無視したお前が悪いんだろ!」
「あれだけ電話を掛けられたらキレてるって思うでしょ」
「だからってアドレスまで変えて無視する理由にはならねーだろ!」
いやいや、なるでしょ。今のこの現状を見てみなさいな、と体を起こしながら呆れる。
キレたら殴るって法則を体に叩き込んだのは貴ちゃんなのに、まるで自分が悪いとは思っていない。
“逃げられた”というより“何か知らんけど、花音にいきなり避けられた”ってくらいの感覚で怒っているんだろう。
絶対、別れてやらんからな、って。
「どうせ、他に男が出来たんだろ!」
「は?ついこの間まで顔面オバケだったのに?」
「だから?花音が他の男と仲良さげに買い物をしてたってツレから聞いたしなっ」
「知らんわ。兄貴の友達か何か見たんじゃないの!」
焦りからかヒステリックに答えてしまう。いつもはもっと猫を被ってるけど、それどころじゃないし。
ってか、あのギャル子。やっぱり村田のことを貴ちゃんにチクってたんじゃん。
別れさせたいのか何なのか知らないけど、勝手に話を盛らないでよ!と怒りを飛び越えて殺意すら湧く。
「兄貴の友達だろうが一緒にいたなら浮気だろ!」
「はい?貴ちゃんだって他の女の子といたんじゃないの?」
「……っ、黙れ!俺はいいんだよ!」
「意味わかんないし!なんで貴ちゃんはよくて私はダメなの?」
「お前は俺と違って悪意しかないだろうがっ!」
“お前のは不健全だけど自分は健全だ”と言いたげに叫ばれ、驚きのあまり目を見開く。
確かに不健全だけどさ。自分だって不健全でしょ。他の女に腰まで振ってるんだから。
それを“俺のはただの友情ですから”とでも言いたいのか?だとしたら、こいつマジでヤバイ。頭がおかしいんじゃ……?と心の底からドン引き。
その私の態度が更にムカついたのか、貴ちゃんは私の頬を叩き付けると、勢い良く拳を振り上げた。
やばいと思ったが、避ける術もなく。ゴツッと鈍い音が頭に響き、瞼の裏にチカチカと星が飛ぶ。