曖昧ハート



 ……あぁ、これが貴ちゃんと付き合って得たモノだ。“殴られると本当に星が飛ぶ”なんて事実、一生知らないままでいたかったよ。


 思い返せば、辛いとか虚しいとか苦しいとか悲しいとか悔しいとか腹立たしいとか、抱いていたのは負の感情ばかり。ちっとも煌めいていなかった。


 貴ちゃんと一緒にいて最後に“幸せ”と感じたのはいつだっけ?何ヶ月?それとも何年前?少なくとも簡単には思い出せないくらい、遠い過去の話だ。


 本当にね。私、いったいドコから間違えたんだろう。

 最初は確かに幸せを感じていたはずなのに、気付けば痛みが当たり前の日常になってる……と、ボコっぱちに殴られながら、どこかズレたことを考える。


 ここまでされて“好き”だなんてどうかしている。”それでも別れたくない“なんて頭がおかしい。

 恋の魔法が解けかかった今、真剣にそう思う。ホント、

 今までよく許してたわ、過去の自分。きっと強烈な恋愛フィルターが掛かって何も見えていなかった。

 嫌な面が綺麗に補正されて、もっと別の、何か違うモノをずっと見てた。

 そうじゃなきゃ、おかしい。だって、普通、気づくでしょ。こいつが化け物だってことくらい。


 「聞いてんのか!?」
 「もういい…、聞きたくない。うんざり」
 「は?」
 「貴ちゃんとは別れる。いい加減、執着してこないで」


 声を捻り出すように別れを告げたら、貴ちゃんは腹立たしげに顔を歪めた。

 何かブツブツ1人で呟いてて怖い。目付きが異常。据わるどころか血走ってる。

 本気で頭のネジがぶっ飛んだのかも。こんな人目に付くような場所でボコるなんてヤバイし。捕まってもいいとすら思ってそう。

 それくらい今の貴ちゃんは頭に血が上ってる。

< 54 / 89 >

この作品をシェア

pagetop