曖昧ハート
「別れる、別れる、って口を開けばそればっか。いい加減、気持ち悪ぃんだよ」
「……あ、そ」
「だったら望み通り別れてやるから、今すぐそこのビルから飛び降りて死ね!」
およそ彼女に浴びせる言葉とは思えない言葉を吐き、貴ちゃんは私の頭に蹴りを入れた。
一瞬、意識が飛び、ガクガクと体が痙攣して数秒、真っ暗な世界の中、一気に嘔吐感が込み上げる。
あ、ダメだ、これ。マジで死ぬ。マジで殺されるやつ。今すぐ逃げなきゃココで人生が終わる。そう分かっちゃいるけど、体が動かない。
目を開ければ地獄の沙汰。瞬く間に服と地面が血だらけになって、嫌な汗がダラダラと流れていく。残ってた愛情まで流れ落ちるように、赤い液体が歯止めなく。
「ちょっと、あんた。ヤメなさいよ!」
「そうだ。女の子相手にひでぇだろ!」
さすがに止めなきゃマズイと思ってくれたのか、それまで呆然と見ていた気の強そうなオバちゃんと、厳つめのオジサンが庇うように間に入ってくれた。
周りの人も目が覚めたように、救急車だとか通報だとか騒いでいる。
けど、貴ちゃんは気にしていない。周りの発言なんて、まるっきり無視だ。しかし、マズイって感情はかろうじて残っていたらしい。
急かすように私の腕を掴むと、そのまま路地の方に引きずっていった。
嫌でしょうがないのに抵抗が出来ないまま、何度も地面に足を打ち付け、情けない足取りで連行されていくことしか出来ない。
本当に死にそうなくらい痛いんだけど……。
貴ちゃんは、きっと気付いてもいないし、焦りもしていないだろう。これくらい平気と思っていそう。こんなの今まで何度もあったし。