曖昧ハート
「はぁ……」
そこから頭と足がふらふらしつつも何とか走り抜けること数分。見覚えのある、猫のイラストが描かれた看板が見えて足を止めた。
辿り着いたのは【キャット】って名前のオシャレなカフェの前。
村田の勤め先だ。店内のインテリアは、その名前に相応しく猫で溢れている。
本当は警察署に逃げ込むのが正解なんだろうけど、気付いたらココに来てた。
頭で考えたのか。心で考えたのか。どっちか分からないけど、無性に“村田と会いたい”と思ってしまった。どうしようもなく。
「いらっしゃいませー」
お店のドアを開けると、鈴のドアベルがカランと鳴り、お客を出迎える村田の声が飛んできた。
店内はいつも通り暖かな雰囲気で、挽きたてのコーヒーの優しい香りが漂っている。
招かれるように一歩足を進めれば、カウンターで作業をしていたマスターと村田が呑気な笑みを浮かべて顔を上げた。が、2人とも私の姿を目に捉えた瞬間、すぐさま表情を一変させる。襲撃してきたゾンビでも見たかのように。
「え、は?花音⁉」
「血だらけじゃねーか!」
「うん。ごめん。こんな姿で……」
「いやいや、そんなことを気にしてる場合じゃないから!」
「とにかく止血だ、止血」
叫びに近い声を上げられ、落ち着きかけていた心臓が一気に騒ぐ。
村田は余程焦っているのか足をぐねって転けそうになっているし。マスターは狂ったようにガーゼやおしぼりをカウンターにバラ撒いてる。
普段はのんびりしている2人が恐ろしいくらい大慌てだ。
そんなにヤバイかな。今の私……。確かに血はまだ出てるし、気分も悪いけど……と回らない頭で考え、ドアの付近でオドオドする。