曖昧ハート
「ごめんね。2人とも……」
「いいよ。今更でしょ」
「そうだ。構わん、構わん」
「それより早く病院で見てもらおう」
「そうだな。その方がいい」
「……うん」
「すぐにタクシーを拾ってきてやるから。ちょっと待っとけ」
そう言うなり、マスターが慌てた様子で店の外に飛び出していった。
村田も私から離れてお店の戸締まりを始めてる。テキパキと手際よく。
その後ろ姿を見てたら無性に申し訳なさが込み上げて、ドバッと涙が零れ落ちてきた。自分でもビックリ。あまり泣いたりしないし。
でも、私以上に村田の方が困惑してる。驚いたように視線をコチラに向けて、“ええっ”って感じに目を見開き、動きを静止。
ソワソワと落ち着きなく突っ立っていたかと思ったら、物凄く戸惑った顔で近づいてきた。
様子を窺うような視線を向けられて、呆然と見つめ返す。
「……どっか痛い?」
「ううん」
「吐きそう?苦しいとか?」
「大丈夫……」
「本当に平気?いきなりコテって死んだりしないよね?」
「死なんわ」
どうやら痛みで頭がバグったと思ったらしい。緊張した顔で恐る恐る体調を確認され、あまりの怯えっぷりに思わず笑ってしまう。
そしたら村田は安心したように表情を緩めて、背中を擦ってくれた。ほんの少し、ぎこちない手付きで。
いかにも慰め慣れしていなさそうな手だ。