曖昧ハート
「ビビったし」
「ね」
「なんで泣いてんの?」
「申し訳なくなって……」
「そこはもう、別に気にしなくていいって」
「うん」
私も照れくさいが、慰めている側の村田もきっと照れくさいんだろう。2人して若干カタコト気味の会話になっている。
何だか居た堪れない。どんな反応をすればいいのか正解が分からないや。
だけど、渡された優しさが暖かい。何の打算もなく、ただ純粋に心配してくれてるって感じがして堪らなく心に染みる。
空っぽだった心を埋め尽くすみたいに。
「そもそも悪いのは向こうじゃん」
「そうかなぁ……」
「そうだよ。ここがゲームの世界だったら今頃、即死魔法を百発は放ってるところだし」
「即死魔法て」
「もしくは剣で滅多斬り。または隕石投下。召喚獣の連続コンボ。ドラゴンブレスもあり」
「一溜まりもないじゃん」
「それくらいは甘んじて受けて欲しくない?毎度、初心者相手に格ゲーでボコボコにしてるようなものなんだから」
ゲームオタクらしいブラックジョークを放ちながら、村田は戯けたように薄い笑みを浮かべた。
敵を倒す作戦でも練るように“あのゲームの、このゲームの……”と、数あるゲームの戦闘シーンについて熱く語ってる。
その話に引っ掛からずに付いていけるくらいには村田と一緒に遊んできたし、その趣味に寂しさを感じないくらいには構われてきた。
村田と過ごす内緒の宴会はいつだって一人じゃなく2人でだ。
独りよがりでもなければ、置いてけぼりにもされない。きっと、これからも。その暖かい時間は、ずっと変わることはない。
そう考えたらあの時間が無性に恋しくなって、柄にもなくピーピー泣きながら、この先の未来をずっと考えてた。
ずるずると先延ばしてきた問題に本気で立ち向かう、と心に決めて――。