曖昧ハート

 「普通に別れるって言えばよくね?」
 「言ったらビルから突き落とされそうになったし」
 「うげ。頭バグッてんな……」
 「もう言ったが勝ちで別れてるってことでいいんじゃないか?」
 「ダメだわ。絶対に認めないって騒いでるし」
 「放っておけ。そのうち新しい女が出来て忘れるだろ」


 それでオッケー。後は他の女の腕に任せろ、と志朗がアイスを食べながらキッパリと私に言い切る。

 “周りにも別れたって言っておけよ、数で押し切れ!”って有無を言わさぬ勢いで。


 「それで、どうにかなれば苦労しないよ」
 「なんで?むしろ、言質なんか要らないだろ。言葉が通じない相手だし」
 「確かにそうだけど。本当にヤバイんだって。半分ストーカーみたいになっちゃって」


 何をそんなに悩んでるんだ、と言いたげな治郎に首を横に振る。だって本当にヤバイから。

 それこそ着拒してるのに履歴が毎日30件は来てるし。私とは無関係な人からもスマホを借りて永遠と掛けてくるし。私の友達やバイト仲間を捕まえては、あの手この手で連絡をつけようとしてくる。

 それを無視かガチャ切りしてたら、今度はSNSの友達一覧に居た人、全員に連絡を入れて、どうにか連絡を取ろうとしてきた。

 上手いこと嘘を吐いては私に言伝を回してきたり、会えそうな人には会って、代わりにメッセージを打たせてもらおうとしたらしい。


 うんざりして新しくアカウントを作り直せば、友達のSNSから辿って私を見つけ、しつこく花音じゃないのかと連絡を入れてくる始末。
 とりあえず“違います”って言って、その場は乗り切ったけど。違うなら写真を送れだの煩かったし、ブロックしても他の人のアカウントから連絡がくるし、鬼のようにしつこかった。


 しかも友達から回ってきた情報じゃ全くの赤の他人が同じ被害を受けたと言うんだから笑えない。

 その確認作業を片っ端からやってるのかと思ったらゾッとする。

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