曖昧ハート

 「ごめん。それだけは絶対に嫌」
 「なんで?」「ボコボコにされた村田なんて見たくないし」
 「平気、平気。あいつ意外と打たれ強いよ。俺らと遊んでただけあって」
 「だとしても。これ以上、迷惑を掛けて村田との関係が悪くなったら嫌だから」


 能天気に語る志朗にちょっとだけ語尾を強めて言い返す。じゃなきゃ、この兄貴たちは強行突破するだろうし。

 唯でさえ迷惑を掛けているのに、これ以上村田を私たちのイザコザに巻き込みたくない。

 出来れば全て解決するまで身を潜めておいて欲しいくらいだわ。


 今のところ被害はないみたいだけど、何がしたいんだか貴ちゃんってば村田のことを聞き回っているみたいだし。


 嫌だわー。貴ちゃんのことだから村田に会ったら絶対に殴りそう。

 ゲームの世界みたいにカウンター魔法やシールドがあればいいのに。なんで現実世界にはないの!?用意してよ!とムチャなお願いを神様にする。


 でもまぁ、治郎が“伊織呼び”の罠を張ってくれたおかげで貴ちゃんは村田の情報を何も聞き出せないでいる。

 ギャル子からの密告で貴ちゃんは村田の名前を“伊織”だと認識しているし。片や私の友達はみんな村田のことを”村田”で認識している。

 だから、どれだけ私の友達に聞き回ったところで『伊織?さぁ、知らない。会ったことがない』と首を傾げられるばかりだ。

 永遠に聞き出せはしまい。


 さすがに小学校からの友達は下の名前を知っているが、なんせ私が『村田、村田』といつも連呼しているものだから結び付かなかったんだと思う。

 心配して電話をしてきてくれたかと思ったら『水くさいなぁ、伊織って誰よ?新しい男?』って聞かれた。

 村田のことだと教えたら『ぎゃははは!村田かよっ。誰それ、知らんとか言っちゃったし。ウケる〜ッ』って死ぬほど笑ってたし。

 この様子なら暫くはきっと大丈夫だと思う、ってか思いたい。
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