曖昧ハート
ばーい
「よし」
見慣れたマンションの廊下。心に気合いを入れ、貴ちゃんの家のドアノブに手を伸ばす。
絶対に別れると決心してから1ヶ月。ストーカーと化した貴ちゃんの魔の手から、のらりくらりと逃げつつ何とか無事に過ごしてきた。
今まで住んでいた家は引き払ったし、仕事先は店長に頼んで実家近くの別の支店に異動させてもらった。
友達や知り合いにも顔面オバケの写メを送って事情を説明し、謝罪や対策のお願いもした。
切り離す準備はバッチリ。後はヤツにパクられた私物を回収して、別れを叩きつけるだけ。
上手くいくかは分からないけど、とにかく“やる”の精神。
貴ちゃんが家に居るのは確定している。少し前にクラブの常連らしき色っぽい女の子と家の中に入っていったし。
そこは、あのサーフィン仲間のギャルじゃないのかよ……と呆れたが、あの子にも色々とやられてザマァだったので良しとする。
それにあまり顔を合わせたくない私からすれば、貴ちゃんが女の子を家に連れてきてくれたのはラッキーだ。
こういう場合、貴ちゃんは鍵を閉めないことが多いから。
それこそサクッと部屋に入れて、サクッとベッド。戸締まりなんて重要かつ細かいことは気にしない。