曖昧ハート
「はぁ…。やべー。気持ちいい〜」
「うんうん。わかるわかる。気持ちいいよね」
何かもう緊張していたのがバカらしくなって、おちょくるように貴ちゃんの言葉に相槌を打ちながら、部屋の奥に足を進めた。
どうせ貴ちゃんのことだ。人の物を隠すとしたら、出し入れしやすいクローゼットの中に決まってる。
そう確信を持ちつつ、クローゼットの方へ。女の子に腰を振っていた貴ちゃんの横を颯爽と通りすぎたら、2人揃って死ぬほどビックリしてた。
ちょっとウケる。アワアワしちゃってバカみたい。
「なんでいるんだよ‼」
「荷物を取りに来ただけ。もう来ないから」
「はぁ?」
「あ、いいよ。気にせず続けて。貴重なリアル体験。逃さずガンガンヤろう」
「な、」
「ほら、振ってこー。イッてこー。出さなきゃ損、損」
軽く手拍子をしながら言ってやった。
何かもう、こっちも焦ってるから無駄にハイテンション。とにかく殴られる前に即行動。
ぱぱっとクローゼットを開き、自分の物を探し、用意してあった鞄の中に荷物を放り込む。
置いていた物は少なかった。貴ちゃんが私の家から盗んだ物以外でいえば、パーカーと部屋着と充電器くらい。
元々あまり人の家に物を置くタイプじゃないし、不特定多数が出入りするこの家に置いて帰るのは抵抗があったんだよね。
しかし、3年付き合ってコレだけってのも、なかなか寂しい話だ。