曖昧ハート

 「お前だろ、花音の浮気相手の伊織って!」


 いきなり始まった貴ちゃんvs村田の何かよく分からんバトル。

 開幕早々、顰めっ面をした貴ちゃんが怒気を孕んだ声で喚く。


 村田の正体が自分の探していた“伊織“だと名乗るまでもなく気付いたらしい。

 ギャル子から見た目の特徴を聞いていたか。会えば絶対に貴ちゃんは村田を殴る、の予想が当たってしまった。


 「そうだよ。初めまして、彼氏さん。殴って少しは気が済んだ?」
 「あ?」
 「ほんと、初対面からこれってマジで殴るか盛るかの二択しかないんだね。ビックリ」


 怒りを煽るようなことを口にしながら、村田は絶賛ブチギレ中の貴ちゃんを見据えて鼻で笑う。

 明らかにさっきよりも貴ちゃんの表情が険しくなっているのに、全く怯む様子もなけば怖じける様子もない。


 殴られた痛みすらも既に忘れていそうだ。兄貴が言っていた村田は“打たれ強い”って情報は事実だったのだと悟る。


 「少し落ちついてよ、2人とも……」
 「うるせぇ!!兄貴の友達だとか嘘ついて、やっぱり他の男と浮気してたんじゃねーか!」
 「別に嘘はついてないわ。村田は本当に兄貴の友達だし」
 「惚けんな!友達の家に居るとか言って本当はコイツの家に行ってたんだろ。電話の度にその猫の鈴の音が電話口からしてたしな!」


 犯行を暴くように貴ちゃんが村田を指差し、大声で叫ぶ。
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