曖昧ハート
確かに村田の家に行くといえば、貴ちゃんから家を追い出されたときが多かったっけ。もちろん、それ以外にも行ってたんだけど。
村田的には、そこはもう言う必要もないと考えていそう。
きっと私とした浮気の件だって教えるつもりがない。貴ちゃんにとって“私も浮気をした“ってところが、唯一の私を責められるポイントだから。
そこを潰されてしまえば、後は泣き言しか言えなくなる。泣き言しか言えない貴ちゃんなんて恐れるに足りない。
兄貴の言う通り本当にヘタレだし。
それを分かっていてか、村田は食い気味に貴ちゃんを責めていく。
「ありえねー。普通、何もなくて家に何回も泊めねぇだろ!」
「うん。あのね、そっちと同じ価値観で物事を考えないでくれる?家に来たから絶対に手を出すとか、そんな方程式、俺には存在しないから」
「ああ?」
「言わばこっちのは避難だよ、避難。帰る手段もないのに追い出して朝まで放置したんだから、俺のところに来ようが責める筋合いはないでしょ」
「だからって、お前……」
「逆に聞くけど。そっちは花音を追い出して何をしてたの?まさか他の女と居ないよね?」
キレてる貴ちゃんに淡々と。村田から放たれる圧が凄い。
私が口を挟む隙もないし、貴ちゃんが言い訳をする暇もない。畳み掛ける勢いだ。
他の女と居たか?って、うん。居たよ。綺麗なくらい思いっきり毎回、貴ちゃんは他の女と居た。
電話口で声が聞こえたり、忘れ物があったり、鉢合わせたり、向こうが口走ったり、ちょこちょこと証拠を残していってくれるから丸わかりだったし。
私を追い出した後にその子と何をしてたかなんて聞くまでもないよね。