曖昧ハート


 「居たんだ?」
 「別に。あれは……」
 「はぁ…。マジで頭悪いし。脳みそ足んねーの?バカならせめて黙っとけば?」


 ゴニョゴニョ口籠る貴ちゃんに村田が落ち着いた声で返す。

 いや、落ち着いてはいないか。いつもより口調がキツイ。むしろ、ボロカスだ。


 基本的に村田は大人しい。まぁ時々、毒舌かなぁってくらいで普段はあまり他人と喧嘩しない。

 そんな村田が強気に貴ちゃんを責めてるのは、疑いようもなく私を守るためだ。

 代弁というか怒りの矛先を自分に向けようとしている。キレるなら自分を殴れ、って感じ。


 そうやって自分に怒りを向けさせて、貴ちゃんの心を折れるだけ折って、私が傷つくことなく別れられるようにサポートしてくれてる。

 それと同時に自分を天秤の重りにして、私の心を揺さぶろうとしている。


 だって貴ちゃんと付き合ってたら村田との関係は続けられないんだもの。

 知られたら取り上げられるのは確実だし、取り上げられたくなかったら、ちゃんと彼氏と別れてねって言われてるのも同然だ。


 私が絶対に自分を切り捨てられないことを自覚した上で、村田は別れなきゃ自分との関係も終わりだ、と私に知らしめてる。

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