曖昧ハート

 「もうね、さっさと別れりゃいいじゃん、そんなクズ」
 「お、おう……」
 「ってわけで他の女とかどうでもいいし、何でもいいから。とっとと俺らの前から消えてくんない?」
 「は?」
 「いい加減、花音を開放してやって欲しい」


 不毛な戦いに痺れを切らしたのか、村田がバッサリと貴ちゃんを切り捨てた。見えない剣で真っ二つ。

 地面に伏せていた貴ちゃんは不愉快そうに顔を歪めて村田を見る。


 「お前には言われたくねーし。関係ないだろ」
 「関係あるよ。花音は俺にとって大切な人だから」
 「はっ、そうは言ってもただの友達じゃん」
 「友達であろうとなかろうとだよ。これ以上、傷付けられるのは許せないし、幸せになって欲しいって花音だからこそ思う」


 ケロリと恥ずかしげもなく、村田は貴ちゃんを見下ろして当たり前のように言った。

 心の底から大切だと思ってる、だからアンタは要らない、と。


 やばい。村田が鬼のようにカッコ良く見える。何かちょっと頼もしい。いや。ちょっとどころか、かなり頼もしい。

 突然、投げられた“大切な女”発言に胸が痺れる。


 惚れそう。ってか、もう既に惚れてるんだろうな。自分の心を覗けば、とにかく村田が好きだった子どもの頃と同じ気持ち。


 あの頃の”好き”が舞い戻ってきて、いつの間にか隠しても隠しても心の内から溢れてる。


 「やばい、村田。好きだわ」
 「あ、うん……。そっか」
 「そっかって何!?」
 「いや、納得したってことだよ」


 何かもう堪らなくなって村田に気持ちを伝えたら軽くあしらわれた。だけど、見た感じ満更でもない。顔が恥ずかしそう。

 ムスッとした顔をしてソッポを向いて、そのくせ耳が真っ赤だ。

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