曖昧ハート

 わかってる。照れてるんだね。知ってるよ。昔からだし。

 それを確かめるように「村田は?」と顔を覗くと観念したように息を吐いて頭をヨシヨシってされた。


 「もー、わかった、わかった。俺も好きだよ」


 って何それ。村田ん家の飼い猫と同じ扱いか。

 でも、この適当にあしらわれつつも、しっかりと構われてる感。やばい。沼る。こいつマジでいい男だわ。好き。


 「ってわけで、ごめん貴ちゃん!新しい彼氏が出来たから、今日で私たち終わりね」
 「は?俺と別れて、そんなオタクと付き合うのかよ」
 「何言ってんの?付き合うに決まってんじゃん!」


 海は広いとかカラスは黒いとか、砂糖は甘いとか塩はしょっぱいとか、それくらい当たり前のように、ごく自然に、当然のように言った。

 それも無駄に明るくハイテンションで。新しく始まった恋のときめきに興奮がさめやらない。


 そりゃそうだよ。相手が誰であろうと、ここで村田を選ばないはずがない。

 だってハッキリわかっちゃったんだもん。村田に恋をしているし、村田を愛している。裏表一体だ。

 どちらも切り離せない。曖昧なハートはどちらの面も持っている。

 でも、どっちにひっくり返ったって悩みはしない。どちらが上を向いても下を向いても、この恋は幸せだと思うから。
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