曖昧ハート
「ねー、村田。今日、家に泊まってもいい?」
「断る」
「なんでよ。村田と楽しく宴会をする為に、ここまで頑張ったのに?」
「それじゃ、お酒を飲むために頑張ったみたいに聞こえるよ」
「違うって。村田の作ったツマミも食べたいし」
「結局は酒か。酒なのか?」
顔の前で手を合わせたあたしに村田は“はぁー”と溜め息を吐く。呆れた、って顔だ。
うん。でも、分かってる。村田のこの顔はOKのサインだ。来いよ。と言っているのも同然。
ただ単に頷くのが恥ずかしいだけ。久々に家に泊まって、その夜、何をするのかを考えたら。
「想像した?」
「してないよ……っ!」
「したでしょ」
「してないって!」
試しにカマをかけてみればバッチリ当たりだ。
うんうん。焦りまくって可愛いやつめ。心配しなくても大丈夫よ。こっちから先に手を出すから。
そしたら何も考えずにまた豹変してくれればいい。出来ることなら、この前よりもほんの少し愛情をプラスして。
「好きよ、村田」
愛情を持ってそう言うと村田は照れくさそうに「そっか」と頷いた。
マスターからの“おやおや”って視線が温かい。
まぁ、まだまだ友情の色が濃い私たちだけど、きっと時間が経てば自然と愛情の色も濃くなっていくことでしょう。
そうして曖昧な色をしていた2つのハートが、綺麗にグラデーションされた1つのハートになっていく。
私たちにしか作り出せない世界でたった1つのハートだ。
そんなオシャレなことを考えつつ、愛くるしいキューピーのラテを飲みほっと一息。
「今夜は寝かさんばい」と、にっこり微笑んで紙袋からプレミア芋焼酎を取り出した。
「やっぱり酒かよ」
「いいのが手に入ったから。つい?」
「もー」
「嘘、嘘、冗談よ。なーんて。飲むけど」
「飲むんだ」
ヘラヘラ笑う私に苦笑いをする愛しのダーリン。
私の愛しい赤面戦士は今日も変わらず、おっさんみたいな私の愛に振り回されるのだった。
曖昧ハート【完】