このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
プロローグ
プロローグ

「――え? 撮られたって、それはどういう……」
「つまり、君と俺の熱愛だのなんだのという記事がどこかの週刊誌から出るってことだ」

 金曜日の夜。この地下駐車場でカシャカシャというシャッター音を聞いたのは、ほんの数分前のこと。

(週刊誌……熱愛……)

 テレビの向こう側の出来事で、自分の人生には一切関係ないと信じていたワードが出水咲穂(いずみさほ)の脳内をふよふよと漂う。

 それらが繋がった瞬間、咲穂は悲鳴にも似た叫び声をあげていた。

「えぇ! 美津谷(みつや)CEOと私が……ね、熱愛?」
「……声がでかい」

 ありえない状況のなかでも妙に落ち着き払っている、この男性の名は美津谷(かい)

 さらりと額に落ちる艶やかな黒髪、美しい卵型の輪郭のなかに各パーツがバランスよく配置されている。シャープな鼻筋、厚すぎず薄すぎない唇、そして……目元がとくに印象的だ。どこかアンニュイで色っぽい。

 櫂は三十一歳の若さにして、咲穂が働く外資系化粧品会社『MTYジャパン』のCEO。そして、その親会社である米国企業『MTYニューヨーク』を創業した人物の直系の子孫、つまり御曹司でもある。
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