このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「今日はふたりとも一日オフだ。よかったら映画にでも行かないか? 咲穂の観たがっていた作品、今日から公開だっただろ」
櫂がとびきりの笑顔で手を差し出してくれる。
「……行きたいです、櫂さんと一緒に」
いつか傷つくはめになるかも。その不安はずっと脳裏を離れないのに、それでも咲穂は彼の手を取ってしまった。
(今だけ、もう少しだけ)
十二時の鐘が鳴るまでは――。未練がましく、靴を落としたりはしないから。
(ど、どうしよう。すごく観たかった作品なのに、ぜんっぜん集中できない)
櫂が予約してくれたのは、新宿にある大型のシネコン。高級ブランドのソファでゆったりとくつろぎながら鑑賞できるというプレミアムシートなのだが……。
(この席、ソファというよりベッドに近くない?)
噂に聞くカップル席というやつなのだろう。周囲の視線が気にならない造りになっていて、ほぼ寝転んだような体勢をとることができてしまう。
櫂の腕が咲穂の肩に回り、グッと引き寄せられる。彼の香りに包まれて、全身がかっと熱くなる。
(わ、わぁ~)
こうなると、もう映画どころではない。咲穂の意識は隣の彼にばかり集中してしまう。
どんな事件が起きて、誰が犯人だったのか、なにもわからないまま咲穂は映画館を出るはめになった。
「なかなかおもしろかったな」
「……ソウデスネ」
「なんでカタコトなんだよ」
白い歯を見せて彼が笑う。
(私はこんなにドキドキしているのに、櫂さんは余裕だなぁ)
少し悔しい気持ちで、咲穂は彼を見つめる目を細めた。
「カフェでお茶して、買いものでもするか?」
櫂がとびきりの笑顔で手を差し出してくれる。
「……行きたいです、櫂さんと一緒に」
いつか傷つくはめになるかも。その不安はずっと脳裏を離れないのに、それでも咲穂は彼の手を取ってしまった。
(今だけ、もう少しだけ)
十二時の鐘が鳴るまでは――。未練がましく、靴を落としたりはしないから。
(ど、どうしよう。すごく観たかった作品なのに、ぜんっぜん集中できない)
櫂が予約してくれたのは、新宿にある大型のシネコン。高級ブランドのソファでゆったりとくつろぎながら鑑賞できるというプレミアムシートなのだが……。
(この席、ソファというよりベッドに近くない?)
噂に聞くカップル席というやつなのだろう。周囲の視線が気にならない造りになっていて、ほぼ寝転んだような体勢をとることができてしまう。
櫂の腕が咲穂の肩に回り、グッと引き寄せられる。彼の香りに包まれて、全身がかっと熱くなる。
(わ、わぁ~)
こうなると、もう映画どころではない。咲穂の意識は隣の彼にばかり集中してしまう。
どんな事件が起きて、誰が犯人だったのか、なにもわからないまま咲穂は映画館を出るはめになった。
「なかなかおもしろかったな」
「……ソウデスネ」
「なんでカタコトなんだよ」
白い歯を見せて彼が笑う。
(私はこんなにドキドキしているのに、櫂さんは余裕だなぁ)
少し悔しい気持ちで、咲穂は彼を見つめる目を細めた。
「カフェでお茶して、買いものでもするか?」