このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 でも、その言葉ひとつですぐに機嫌が直ってしまう。

「はい! 白木チーフにオススメしてもらったセレクトショップに行ってみたくて……」
「いいよ。なんて店?」

 映画にカフェにショッピング。咲穂がひそかに憧れていたデートプランだ。夜景の見える豪華フレンチももちろん素敵だけれど、櫂となら目的もなくブラブラ歩いているだけで十分に楽しかった。

 全身鏡の前。咲穂は右手にオフホワイトのシャツワンピース、左手に黒いツイードワンピースを持って、う~んと眉間にシワを寄せる。

「迷ってるのか?」
「はい。櫂さんはどっちがお好みですか?」
「……そうだな」

 彼は咲穂の後ろに回って、二着のワンピースを順番に咲穂の身体に当てる。距離の近さにまたもやドキドキしながら彼の答えを待つ。

「どっちもよく似合いそうだ」
「お世辞じゃなくて、できれば本気のアドバイスを! 私、自分のセンスにあまり自信がないので」

 広告の色彩センスはよく褒められるのだが、自分のファッションとなると途端にわからなくなってしまう。櫂はファッションセンスも抜群なので、本音の意見を聞きたいところ。

「お世辞じゃなく、どっちも似合うよ。以前にも言っただろう。咲穂は無色透明だって。なんでも似合うから好きなものを着たらいい」

 ファッションは苦手だと思っていたけど、彼がそう言ってくれると少し自信が持てそうだ。

「う、嬉しいですけど……余計に決められない」

 咲穂が嘆くと、彼はクスリと笑って二着ともレジに運ぼうとする。

「え。櫂さん、待って」
「白いほうは次のデート、黒いほうはその次のデートに着てほしくなった。だから、この二着は俺が買うよ」
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