このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「いやいや、洋服くらいは自分で!」

 咲穂は固辞したが、櫂に説得されてしまう。

「会計してくるから、先に出て好きな店を見ていて」

(花束と指輪に続いて……またプレゼントしてもらっちゃったな。そうだ、なにかお返しを!)

「あ、じゃあお手洗いに行ってきていいですか? 少し時間がかかると思うので、戻ってきたら電話します」
「了解」

 お手洗いは嘘だ。櫂に見つからないように、ちょっとしたお返しの品を買いたいなと思ったのだ。咲穂はメンズのお店が並ぶエリアに向かう。

(でも、ちょっとしたお返しって実は一番選ぶのが難しいよね。う~ん)

 ファッション小物、文房具、いっそ食べもの? ゆっくり選ぶほどの時間はないのに、悩んでしまう。

(あ、これ!)

 たまたま目に留まった品物にインスピレーションを感じた。

(うん、いいかも。喜んでもらえそう!)

 急いで会計を済ませて、彼のもとに戻る。

「夕食、この前はフレンチだったから和食はどうだ?」
「はい! 和食も大好きです」

 咲穂が元気よく答えると、彼はこらえきれないといった顔でふっと噴き出す。

「咲穂のその素直なとこ、本当にかわいいな」

 大きな手がくしゃりと咲穂の頭を撫でる。

 こういうスキンシップ、少し前までは嬉しくて、ただドキドキするばかりだったのに……今日はなんだか複雑な気分になった。

(かわいい、かぁ。櫂さんから見ると、私はやっぱり子どもなのかな)

 六つも年下だから? それとも、咲穂の恋愛経験値の問題だろうか。

「なにを拗ねているんだ?」

 いぶかしげに、櫂が首をかしげた。

「拗ねてなんかいないですよ」
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