このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
「嘘つけ。君の演技の下手さは十分に知っているから、ごまかすな」

 櫂は追及の手を緩めない。咲穂は諦めて、正直に自分の思いを伝える。

「その、櫂さんの目にはやっぱり私は……子どもっぽく見えますか?」

 櫂に女性として見てほしい。その思いがどんどん大きく膨れあがっていく。

「君を子どもっぽいと思ったことはないな。自分の力で夢をつかもうと努力していて、年齢以上に大人だなと感じている」
「え? 本当ですか?」

 急に褒められて、なんだか照れてしまう。

「あぁ。でも、君が子ども扱いされているように感じたのなら、それは俺が悪かった。謝るよ」
「いえ、櫂さんのせいじゃないんです。なんというか、私の気持ちの問題で……」

 自分のこの感情をうまく伝える言葉が見つからない。だけど、櫂は気づいてくれたのかもしれない。ニヤリと笑って、咲穂の耳元でささやく。

「そういうことなら、遠慮なく大人のデートをさせてもらおうか」
「えぇ?」

 背の高い彼を上目遣いに見つめると、熱情のにじむ色っぽい眼差しが返ってくる。

「俺の理性を溶かした、君が悪い」

 彼が咲穂の手を取る。指先を絡める動作が妙に官能的で、胸がドクドクと波打った。

(手は何度も繋いだことがあるのに、今日は違う気がする)

 新宿から銀座に移動して、高級寿司店でディナー。まさに大人のデートだ。

(でも、デートの内容がどうとかじゃなく……)

 咲穂に触れる手つきとか、いつもよりさらに近い距離とか。今夜の彼は色気全開に咲穂を翻弄する。

「こんなにおいしいお寿司は初めて食べました。もう、おなかもいっぱい」
「それはよかった。けど……まだ帰さないから」
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