このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
 クスリと口元を緩めて、櫂はゆっくりと白ワインの入ったグラスを指先でつまむ。ひと口飲んだのかと思いきや、彼はふいに咲穂に腕を伸ばす。

 後頭部をホールドされて、唇が重なる。熱い液体が喉を流れて、マスカットのような爽やかな香りが鼻を抜ける。

(く、口移し?)

 初心な咲穂には刺激が強すぎた。頭がクラクラしてなにも考えられなくなる。

「これで、咲穂はワインを飲むときにも俺を思い出す」

 そのほほ笑みに心臓をわしづかみにされた気がした。

(あぁ、もう。どうしようもなくこの人が好きだ。櫂さんが欲しいし、欲しいと思ってもらいたい)

 咲穂のその思いが伝わったのだろうか。彼の両手が咲穂の頬を包み、おでこがコツンとぶつかる。

「――咲穂」

 白ワインの香りがするキスは、甘くて濃厚で……大人の味。

 唇を割って侵入してきた舌が縦横無尽に咲穂の口内を撫で回す。息もできないほどの熱いキスに、頭の芯がとろけていく。
 これまでのキスとはあきらかに種類が違う。その先を予感させる口づけだった。

「はぁ、櫂さん。ここ、お店……」

 個室とはいえ、まずいのではないだろうか。けれど彼のキスはやまない。

「大丈夫。ここは多分〝そういうこと〟に寛容な店だから」
「――んっ」

 からめとられて、強く吸われて、全身が痺れるよう。櫂の手が咲穂の膝をタッチする。そのまま太ももを撫でるようにスカートをたくしあげた。

 食べられてしまいそうな激しいキス、覆いかぶさってくる彼の重み、咲穂にとってはなにもかもが初めてで……どうしていいのかわからなくなる。

「咲穂。このまま――」
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