このたび、夫婦になりました。ただし、お仕事として!
翌日。MTYジャパン、コスメティック事業部。

「いただいたメイクプラン、ばっちりでした!」
『そう? よかった』

 社用スマホから届くのは、悠哉のホッとしたような声。
 人気タレントを起用した、リベタスのメインCM。近づく撮影日に向けて、当日のメイクを担当する悠哉と最終確認を行っているところ。

(七森さんがメイクする蓮見さんと冬那さん……絶対に素敵だろうなぁ)

「それじゃあ、撮影当日もよろしくお願いします」

 電話を切った咲穂は、お手洗いのために席を立つ。デスクに向かっているときは仕事モードでいられるけれど、気を抜くとふいにゆうべの出来事が蘇ってきてしまう。

(――あぁ。時を戻せるなら、昨日に戻って終盤だけなかったことにしてしまいたい)

 そうしたら、楽しいデートのまま終わりにするのに。ひとりよがりに突っ走った自分が恥ずかしいし、なにより……櫂に受け入れてもらえなかった事実が痛かった。

(あれってつまり、私じゃその気になれなかったってこと? それとも私に手を出したら面倒だと冷静に考えた?)

 どちらにしても、櫂の気持ちは咲穂と同じ方向を向いてはいないということだろう。

「はぁ」

 思わず、重いため息が落ちる。

(でも、考えようによってはよかったのかも。抱かれてしまったら、私もっともっと櫂さんを好きになってしまうもの)

 少し近づけたような気になっていたけど、やっぱり自分たち本当の意味でハッピーエンドはあまり想像できない。この辺りでストップをかけるべきなのかもしれない。

(ゆうべの櫂さんの態度も、そういう意味だったのかもしれないな)

 彼とは……やはりビジネス夫婦で終わる運命なのだろうか。

(うぅ、自分の心の声がグサッとくる)
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