冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
「冬那さんの事務所はそれを希望しているんだけど、蓮見さん側のスケジュールがNGで。現場でなんとか痣を映さないように調整できないかって……」
「えぇ? エキストラならともなく、彼女はメインモデルですよ」

 絵コンテもメイクプランも、すべて見直す必要が出てきてしまう。

「でも、蓮見さん来週の撮影のあとは三か月の海外ロケなんですって。だから撮影日は絶対に動かせないのよ」

 痣を映さないようにどうにか調整する方向で動けというのが上層部の指示のようだ。プロジェクトのトップである櫂も了承しているそう。
 咲穂は慌てて関係各位に事情を説明し、協力を仰いだ。誰も悪くない不慮の事故が原因なので、みんなどうにかしようと必死に動いてくれた。

「最後は七森さんね」

 正直、もっとも迷惑をかけることになるのは彼かもしれない。時間をかけて計算し尽くしたメイクを急に変更、それも横顔しか使えなくなるのだから。

 咲穂が電話をかけると、彼は『電話じゃまどろっこしいから、今日の仕事を終えたらそっちに行くよ。直接話そう』と言ってくれた。
 関係各位との調整にバタバタしていると、あっという間に夕方になった。

 午後四時半、咲穂が予約していた会議室に悠哉が駆け込んでくる。

「七森さん。このたびはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 咲穂が頭をさげると、彼は優しくほほ笑んだ。

「咲穂ちゃんが謝ることじゃないでしょ。この業界、こういうトラブルはつきものだし、慣れてるから大丈夫。元の案よりいいもの作ってあげるから、安心して」

 悠哉の自信に満ちた笑顔、今の咲穂には救世主に見えた。
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