冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 悠哉の口調は穏やかなのに、どうしてか、追いつめられた犯人みたいに咲穂の心臓はバクバクしはじめる。
「咲穂ちゃん、ひとつ聞いてもいい?」
 ドドドと音を立てて、鼓動はますます速くなっていく。
「君と櫂は、本当に愛し合って結婚した?」
 とうとう、彼は核心に触れた。 
(どうしよう。なんて答えたら……誰にもバレたらいけないのに)
「あ……」
 声がかすれて、音にならない。
「実は僕、聞いちゃったんだよ。ふたりが共演するCM撮影の日、咲穂ちゃん現場に入る前に廊下で櫂の名前を呼ぶ練習をしてたでしょ?」
 あの日の自分の行動を思い出し、咲穂の顔から血の気が引く。
 そう、櫂から『ラブラブ夫婦に見えるよう十分に気をつけろよ』と言われ、美津谷CEOではなく櫂さんと間違いなく呼べるよう……スタジオの廊下の隅で、ひとりで何度か練習をしていたのだ。
 あの場面を悠哉に聞かれていたとは――。
「別にあのときは、とくに気にも留めなかった。名前で呼ぶことにしたのかな? ほほ笑ましいなって思っただけで。でも、仕事で君たちと過ごしている間にちょっとずつ違和感を覚えて……」
 悠哉は櫂の幼なじみで、彼の性格、思考回路を誰よりもよく知っている。櫂がなにを考え、どう動いたのか、きっと想像したのだろう。
「ふたり、結婚を発表する直前に週刊誌の記者に撮られていたよね。もしかして、櫂はそれで咲穂ちゃんとの結婚を決意したんじゃないか? 自分のスキャンダルがリベタスの邪魔をしないように」
 ぐうの音も出ない、見事な推理。
「えっと、その」
 どうにか弁解しようと必死な咲穂の顔を見て、彼はふっと薄く笑む。
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