冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
「やっぱり、咲穂ちゃんは嘘が下手だ」

(ダメだ。全部バレてる)

 悠哉はすべてを見抜いている。ここからごまかすのは不可能に近いだろう。

「お願いします、誰にも言わないでください!」

 咲穂は口止めするという方向に作戦を切り替えた。以前、櫂は『悠哉にだけは話してもいいんだが』と言っていた。ならば、彼にはすべて打ち明けて協力してもらうのがベターだろう。

「事情が……あったんです」

 自分たちのビジネス婚は決して櫂の自己保身のためではなく、咲穂にも実家救済というメリットがあったことなどを説明する。
 話を聞き終えた悠哉は小さくうなずく。

「心配しなくても、誰にも言わないよ。まぁちょっと、思うところはあるけどね」

 悠哉は飲み干したコーヒーのカップを、トンとテーブルの上に置いた。

「そろそろ帰ろう――」

 そう言いかけて、彼はふと後ろを振り返った。なにかを探すようにキョロキョロしている。

「どうかしましたか?」
「物音が聞こえた気がしたんだけど……気のせいかな」

 彼の言葉に咲穂も周囲を見回すが、とくに異変はない。

「もう遅いから、社員は残っていないと思いますけど……」
「だよね」

 ビル内空調の作動音かなにかだったのかもしれない。ふたりはそう結論づけて、帰り支度をはじめる。

「もう遅いから駅まで送るよ」
「ありがとうございます」

 本社ビルの正面入口は閉まっている時間なので、悠哉と一緒に裏口から外に出た。
 今夜の月は大きくて、すごく綺麗で……その月明かりを背負った彼が咲穂に笑いかける。

「ねぇ、咲穂ちゃん」
「は、はい!」
「もし、どうしてもつらいことがあったら……そのときは僕のところにおいで」
「え? それはどういう……」
「そのまんまの意味だよ」

 悠哉は意味深に笑うだけで、それ以上はなにも言わなかった。
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