冷徹無慈悲なCEOは新妻にご執心~この度、夫婦になりました。ただし、お仕事として!~
 おびえる彼女の瞳ににじむ涙を見て、櫂はようやく我に返ることができた。いくらなんでも強引すぎたし、そもそも緩そうな店ではあったがあそこはホテルでもなんでもない。自分のけだものぶりに、我ながら呆れる。

「とにかく、あらためて仕切り直そう」

 そうつぶやいて、櫂は仕事へと意識を向け直す。

 昼の二時過ぎくらい。秘書の大川を通じて、リベタス広報チームのチーフ、咲穂の上司である理沙子から『直接話をさせてほしい』との申し入れがあった。櫂が構わないと伝えると、彼女はすぐにやってきた。

「急にお時間を頂戴してしまって申し訳ございません」
「構わない。なにがあった?」

 彼女の様子から、トラブルでもあったのだろうという推測は立てられた。聞けば、メインCMでモデルを務める冬那が顔に怪我をしたとのことだった。

「撮影日の変更は難しいため、怪我が映らない方向で撮れないかと動いております」

 彼女の説明はすべて納得できるものだった。櫂は大方針のみに指示を出し、具体的な調整は広報チームに一任すると彼女に伝える。咲穂をはじめチームメンバーは全員、もう櫂の譲れない理念を十分に理解してくれているし任せても大丈夫だと思えたからだ。

「電話はいつでも受けられるようにしておくから、難しい問題が発生したら遠慮せず連絡してくれ」
「ありがとうございます!」

 頭をさげて彼女は部屋を出ていった。
 モデルが顔に怪我。なかなかの困難に見舞われたが、不思議と心配はしていない。悠哉がトラブルに強いタイプであることはよく知っているし、なにより咲穂がいるから大丈夫だと信じられた。
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